琥珀のパイプ
創作探偵小説集

琥珀のパイプ 復刻版

甲賀三郎著
春陽堂書店
原書発行日:大正15年7月18日発行
発行日:平成11年7月20日 復刻版第1版

目次

惡戲・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
琥珀のパイプ・・・・・・・・ 13
大下君の推理・・・・・・・・48
カナリヤの秘密・・・・・・・67
闖入者・・・・・・・・・・・・・・113
母の秘密・・・・・・・・・・・・129
或る夜の出来事・・・・・・183
空家の怪・・・・・・・・・・・・199
誘惑・・・・・・・・・・・・・・・・215
ニツケルの文鎭・・・・・・・253
愛の爲に・・・・・・・・・・・・287
古名刺奇譚・・・・・・・・・・311


惡戲(あくぎ)より。

 五四歩と突いたのが私の致命的の失策でした。ほんたうに文字通り致命的だつたのです。彼は暫く
考えた後、五五桂と打ちました。私はハッと思ひましたがもう遅かつたのです。私はぢつと盤を眺め
ました。眼の縁が熱くなつて盤面中の駒がボーッと一つに見えます。彼の得意さうな顔が私の見えな
い網膜にありありと写ります。今日の將棊は止せば好かつたと後悔の念がひしひしと胸を攻めました。





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